今回の作品はフリーゲームのEND ROLLです。
2024年9月9日にクリア、プレイ時間は(ぼちぼち寄り道をして)8〜9時間程でした。
※本作は残虐な描写が多数あるので、プレイ推奨年齢は15歳以上になります。
・どういうゲーム?
町やダンジョンを探索したりターン式の戦闘があったりするRPG作品です。
本編は割とサクッとクリア出来ますが、隠しキャラが仲間になったりサブクエストがあったり寄り道要素が多く、短いですがキャラクター毎にシナリオが用意されていたりとファンには嬉しい仕様でした。これらをクリアするとそれぞれのキャラクターが特技を取得したりもします。
ストーリーは注射器とベッドのみが設置された真っ白な部屋で、主人公・ラッセルと看護師らしき人物がモニター越しで会話をするところからスタートします。
なにやらいきなり奇妙な雰囲気で面食らいましたが、どうやらラッセルは閉じ込められて実験体にされている様子。【HAPPY DREAM】という打てば楽しい夢を見ることができる怪しすぎるクスリの投与を促されたラッセルは注射器を打ち、夢の世界に旅立つことで物語は始まります。
目を覚まして部屋から出ると、そこは平和そうな普通の町でした。この町に住む楽しく優しい住人達と交流しながら、ラッセルは夢の中の不思議な世界を冒険する、といった感じの物語になります。
OMORIと近いような雰囲気ですが、こちらで冒険できるのは夢の中のみで、現実世界では実験施設の白い部屋から一歩も出ることが出来ません。これには理由があり……。
冒険が進むにつれて、だんだん住人達の正体、ラッセルとの関係性、そして【HAPPY DREAM】による実験の目的が明らかになっていきます。
導入から住人達との顔合わせ、そして真相に近づく展開まで非常にスムーズであり、一気にその不気味で魅力的な世界観に引き込まれてしまいました。
無口なラッセルに友好的に接してくれる住人達はみんな非常に可愛く魅力的で、すぐに大好きになりました。ちなみに本作のお気に入りキャラはいつも通り主人公の兄的存在であるタバサさんです。ラッセルのお隣の家に住む動物のお世話をしているお兄さんで、一番最初に一緒に冒険をすることになり、そして一番最初にその真実を知ることになるキャラクターです。
・罵られるのには理由がある(以下ネタバレ)
物語開始時、そして目が覚めて現実世界に戻るたび、看護師からイカレ野郎様と罵られます(笑)この看護師、口調は丁寧ですがラッセルに対して非常に冷たい言葉を投げかけてくるんですよね。最初は何!?と驚きましたが、真実を知るたびに、看護師のそんな態度にも納得してしまいました。
実は、ラッセル少年は罪悪感の欠如した人間であり、その正体は現実世界で様々な理不尽な理由で何人もの人々を殺してきたサイコパス殺人鬼でした。
家庭環境に問題があったとはいえ、全く罪のない、それどころかラッセルに親切に接してくれた人々を「この人はなぜ僕のお兄ちゃんじゃないんだろう」「天使のようなこの子は、階段から突き落としたら空を飛べるのかな?」等ぶっとんだ理由で殺してきたという真実を知ったとき、この作品の真の姿を見た気がしました。
被害者はラッセルと深い関係性だったというわけでは無く、たまたま動物園で出会った飼育員だったり、ラッセル含むクラスの全員を誕生日会に招待したただのクラスメイトだったり、こっそり手当をしてくれた看護師だったり…偶然ラッセルの目についてしまっただけの不運な人達です。
そんなラッセルに幸せな夢を見せて、その中でかつて自身が手にかけた人々と交流することによって罪悪感や後悔を覚えさせ、更生させることが【HAPPY DREAM】実験の目的となります。
…つまり、あんなに幸せそうな夢の世界で、あんなにラッセルに優しく接してくれた住人達は、かつて現実世界でラッセルによって殺害されてしまった人々のラッセルの夢の中での創造された姿なのでした。地獄か?
可愛らしい絵柄に騙される系の鬱ゲー作品は過去に沢山やってきたし本作についても覚悟はしていましたが、まさか主人公が加害者とは…なかなかの尖った設定に驚かされました。
・罪悪値とエンディング
夢の世界での冒険は、そこで生きる人々を知り、好きになればなるほど罪悪感が増していくというラッセルにとっては非常に恐ろしい実験です。これは罪悪値として数値化されており、最終的なこの数値(+選択肢)によってエンディングが分かれるマルチエンドとなっています。
私はそれなりに寄り道したこともあって罪悪値が強く実験成功のトゥルーエンドで終わりましたが、ラッセルは目覚めた罪悪感に苦しみ自殺してしまいました。逆に実験が失敗に終わればどうしようもない犯罪者としてそのまま処刑される結末らしいです。どちらも救いがない…。
選んだ住人の一人に真実を打ち明けラッセル自身を殺して貰うことで実験は完遂となるのですが、この最終イベントもなかなかにキツかったですね…。私はもちろんタバサさんを選びましたが、やるせないながらも共に過ごしてきたラッセルへの想いや夢世界での楽しい日々を確かな気持ちとして語る姿には、どうしようもなく悲しくなりました。
ラッセルには自業自得な結末だし彼のしたことは許せないことだけど、プレイヤーとしてはラッセルの目線で悲しい境遇や夢世界での葛藤を見ていくわけだから、愛着が湧いてしまうこともあると思います。救われてほしい、これからは幸せになってほしいと願う気持ちも生まれます。
だけど、気付いたらときにはすべてが手遅れで、愛した人々はもう誰もいない。どうすることも出来ず誰にも救いが無いんですよね。クリアしたあとズーンとした暗い気分になりましたが、そこがこのゲームの大きな魅力だとも思っています。
ちなみに、罪悪値が高くても住人に真実を打ち明けないことで夢の世界にとどまり続けることも可能で、これがもう一つのトゥルーエンドになります。
しかし、OMORIのように現実を捨てて夢の世界を一生探索するぜー!やったー!とはならないのがエンドロールという作品。夢の世界はラッセルの精神とリンクしており罪悪感を抱けば抱くほど崩壊を続けるので、このまま進んでも夢世界が完全に崩壊して終わります。また、現実世界でも実験失敗として薬の投薬は強制終了しラッセルは収監されたまま放置されてしまうので、どう転んでもバッドエンド!マルチバッドエンド!泣
・夢世界のあれこれ
ストーリーを進めて住人の殺害方法を知れば、にこやかに接していたその住人がラッセルに殺害された際の姿で「なぜあんなことを…?」と問いかけてきたりします。あんなに笑顔で可愛かった住人達の血まみれだったり、火傷で顔が無い姿にメンタルが削られまくりました。
先述の通り夢の世界はラッセルが犯した罪を自覚していくたびに姿を変えて行くので、明るくきれいだった町が崩壊してモンスターだらけになったり文字がおかしなことになったりと、話が進むごとにトラウマ級の不気味な世界に変わって行ったのが印象的でした。
不気味といえば、夢の世界で戦うことになるモンスターもとても気味が悪かったです。誰もかれも非常に意味深な姿と名前をしているのですが、それは殺害現場を目撃していた動物園の猿【目撃者】だったり、ラッセルに殺害された兄妹の母親【埋葬者】だったり…。モンスターたちは罪悪感となってラッセルに物理的にも精神的にも襲い掛かり、そして怨嗟の言葉を投げかけて来ます。この発想力は本当にすごいなぁと感じましたね。
猿が怖すぎる。
メインストーリーで一度仲間にしたキャラクター(+隠しキャラ)は探索パートでパーティーに加えることが可能です。メインで必要なキャラ+残りの枠は自由に編成することが出来るので、好きなメンバーで冒険出来て楽しかったです。
エンカウント率は若干高めですが、ダンジョンはシンプルなものが多く回復ポイントも設置されているので突破は簡単です。ただ、レベル上げ怠ると雑魚敵に苦戦することもあるのでちょうど良いくらいのゲームバランスだし、状態異常や属性相性もあり良く作られているなぁと感じました。性能、特技、装備や戦闘アニメにもキャラクターの個性が出ており面白かったです。
回復ポイントでは仲間たちと会話をすることが可能です。これは町での会話にも言えることだけど、進行具合によってその内容が変化する等作りこみは細かく、会話パターンを回収するためだけに回復ポイントに寄ったりもしていました。
他に寄り道要素で面白かったのは別荘を島ごと買うことが出来る点でしょうか。この別荘では仲間たちと会話したり釣りをしたり風呂に入ったり出来ます。盛りだくさん。
釣りで得た魚は調理してもらって食べることで全員の能力値を上げたり出来るし、メンバーによってはお風呂会話もあり、別荘の一部屋で本作のサウンドもすべて聴くことも出来ちゃいます。本作の楽曲は世界観に合った優しく怪しい雰囲気のものが多く、どれも素晴らしかったです。数種類あるボス戦の曲はどれも痺れるくらいかっこよく特にお気に入りで、しょっちゅう聴きに通ってました。
全体的にゲームバランスは良く、難易度もちょうど良いと感じました。町にはラッセルそっくりの【情報屋】がおり、彼が今後すべきことや発生しているサブクエのヒントを教えてくれるので、詰まることは無いと思います。
鬱だけど味のあるストーリーや好きになればなるほど悲しくなる魅力的なキャラクターの存在は勿論、グラフィックも音楽も上質でとても楽しめました。この作品をプレイしたいがためにノートPCを新調したようなものなので、元から期待はしていましたがそれを上回る充実感でした!
ただ、やはり内容が内容なだけに人を選ぶ作品であるというのも確かです。刺さる人には突き刺さる系の名作という感じ。
私はしっかりと突き刺さった側の人間なので、既に2周目を開始しています。1周目はスルーしてしまった未回収のイベントが結構あるみたいなので、公式様のヒントを見つつ頑張ろう。